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 確かに何がどうなっているのか、話を聞きたいとは言った。
 言ったけれど、銀時が話を聞きたかったのはであって真選組の誰かではなかったはずだ。
 ましてや目の前の、少年と言っても差し支えなさげな沖田隊長は、何しにきたのと質問した銀時に対して「何だと思いやすか?」と質問で返してきた。
「知らねえよ。つうかだぁからなんでうちに来るかなぁ? 総一郎君」
「総悟です。姐さん本人に聞いたら上手く笑顔で誤魔化されたんで、仕方ねえじゃねえですか」
「なんだそりゃ」
 会話が成立していない。
 何がどうしてが人質になっていたのか、銀時はそれが知りたい。
 そして数日残るであろう痣の責任は誰にあるのか問いたい。
 だのに沖田から出たのは、どうすればに剣を持たせて手合わせできるのかの相談だ。
 市民を守るはずの真選組がどうしてを守れなかったのか、そこを問い質したい銀時の疑問など耳に入れることもしない。。
「大体さあ、連れてったのはおたくらのくせに、なぁんでちゃんと無事に店まで届けねえのかなぁ」
「桂と奴らの違いなんざ、俺らにとっちゃどっちもどっちなんですが、姐さんにとっちゃえらい違いのようでしたぜィ。えらい剣幕で口調まで違って、あんな姐さん滅多にお目にかかれませんぜィ」
「は? 何言ってんの?」
「近藤さんの刀、あっさり奪って男に突きつけてやしたぜィ。それこそ修羅か夜叉かってェ有様で。でも、あれでも姐さん、きっと手ェ抜いてたんでしょうねィ」
「おーい。沖田くーん?」
 銀時の嫌味は無視し、沖田は今更ながら一発目の銀時の質問に答えてくれているらしい。
 だが前後と大切な部分の説明が省かれてしまい、意味が通らない。
「土方さんや近藤さんとは違った立ち回りをしてくれると思うんですが、それを確かめる上でも是非とも手合わせ願いたいんですがねィ」
「…………」
 聞きかじった情報と、時間は掛かるが一つ一つ質問したことを寄り合わせてみた結果、沖田が何故銀時のところへ来たのかの理由が判った。
 桂を莫迦にされて頭にきたが刀で男を脅し、その様相にどこかを刺激されたらしい沖田が手合わせをしたいと申し出たようだ。
 だがそれを体よく断られてしまったため、どうしたら誘いに乗ってくれるかの相談をしにわざわざやってきたというところだろう。
 何をしてるんだ、と言葉にしない呟きが呼気として漏れた。
 この感想は今沖田へ告げるべきではないものである。
「……正統派で行ったって、あいつぁ受けちゃくれれねえだろう」
「確かにそうみたいですねィ」
 だからと言って闇討ちの如く不意を付いたところで、最初の一太刀をかわして終了だろう。
 そうしてそれ以上、は沖田の剣の相手はしない。
「そうだなぁ……」
 別に正直に教える必要など、銀時にはない。
 例えどんな手を使ったとしても、が沖田の策に乗るようには思えない。
 けれどそう助言したところで目の前の彼は納得してくれないはずだ。
 そうでなければ、わざわざ此処へ来た理由がない。
「総一郎君」
「総悟です」
「あのゴリラを目の前で貶されたらどうする? 腰にゃ勿論それがぶら下がっていて、邪魔者が側に居ないとして」
「そりゃあ、……。……あぁ、そういうことですかィ」
 無駄だと言ってのけるのは容易い。
 何故かと問われればのらりくらりと誤魔化してしまうため、納得して貰い辛い。
 ならば自分の立場に置き換えて考えて貰えば良い。
 案の定、沖田は銀時の言わんとしていることを正確に読んでくれたようだった。
「あいつにとっちゃ桂はそれに似た立場の人間だ」
 真選組局長の近藤と沖田の関係と、桂との関係は正確に言えば同一のものではない。
 似た関係であるというだけではあるものの、の咄嗟の行動に説明を付けるにはぴったりである。
「そんじゃあ、姐さんに剣持たすのは難しいんで?」
 納得はしてくれたが、諦めてはいないようだ。
 変化のない沖田の顔を眺めながら頭を掻き、銀時は次の句を探す。
「一応あれでも一般市民だし、腰にゃ立派なもんぶら下げちゃいねえし、これ以上しつこくするとゴリラと一緒になっちゃうんじゃねえ?」
 懲りもせず毎日毎日妙に言い寄る近藤は、自称愛の狩人だろうとただのストーカーである。
「近藤さんと一緒にしないでくだせえ。俺ァ単純に姐さんに一太刀浴びせてみてえだけでさァ」
「おいおい一気に話が物騒になってきたよ」
 避けてくれることを前提に話をしているだろうが、出た言葉だけ見ればただの襲撃者である。
 それだけ剣に置いて自信と拘りがあるということなのだろう。
 そうでなければ、今はどう見てもただの一般市民であるに剣で挑もうとは思わないはずだ。
 と銀時は、女だてらに戦争中は刀を振り回し、共に戦って来た仲だ。
 強い弱いの定義に当て嵌める相手ではないにしろ、銀時はから完全な一本を取れるかは甚だ微妙であると思っている。
「あー……沖田君ならやり合って勝てずとも負けもしない、てとこだな」
 俊敏さに軽快さと、背丈を秤に掛けてもどちらにも優劣付け難い。
 無意識にでも手を抜いてしまいそうな己とは違い、沖田は相手だろうと全力で行くだろう。
 だが、全盛期のを知る銀時としては、計算付くで相手の懐に無防備に飛び込むの無鉄砲さと計算高さを視野に入れれると、どちらに軍配が上がるのかは判らない。
「沖田君がもう少し経験と成長を積めば、勝つかもね」
 愉快そうに口の端を上げる銀時を、沖田は目を丸くして見つめた。
 銀時は沖田の剣を知らないわけではない。
 だが真っ向から剣を交じらせたことはないはずだし、恐らく相手にも相手をしたことはないはずだ。
 練習ならいざ知らず、実践では、恐らく。
「……そういや旦那ァ」
 今の自分では負けないにしても勝てないと豪語されて、少々面白くないのは、まだ大人になり切れていないからだろうか。
 思考を自ら無視して、沖田はにやりと笑う。
「姐さん、意外と感情豊かなんですねィ」
 虚を突かれたように銀時は一瞬目を丸くした。
 だが直ぐににやりと笑う。
 言われたことが、気付かれたことがとても嬉しいように。
「そりゃお妙ほどじゃあねえが、あいつも結構感情のままに動く女だぜ」 
 いつも笑顔で誤魔化しているように見えて、後先考えずに行動することはある。
 妙の場合それが怒りに関しては非常に過激であるので判り易いが、は密やかで裏で画策していることのほうが多い。
 それに気付くのは昔からまず今は亡き弟で、次が銀時。
 恐らく今日の屯所での行動も、一緒に居たならば止められた自信が銀時にはある。
「ありゃ。焼餅焼かせてやろうと思ったのに、あっさり返されちまったらつまらねえですよ。旦那」
「俺に勝とうなんざ百年早ぇよ」
 ことに関して言えば、沖田は銀時の足元にも及ばない。