荷物持ちは嫌いだ。
ましてや女の尻を追いかけるなど、軟弱な男の証明だ。
けれど。
「ほんまに、一人で大丈夫ですよってに」
「何言ってるんですか、水臭いですよさんっ。いつも総悟がお世話になってるんだ、これくらいの恩返しはさせてください」
局長自らが知り合いの女の荷物持ちなぞ買って出ているのだから、ましてやひとまず顔見知り以上ではある副長が無視して先を急ぐわけにもいかない。
「つうかどんだけ買い込んでるんだ。一人暮らしなら持ち帰れる量だけ買えっつうんだ」
粗目砂糖や小麦粉、米などいくら安いと言っても限度がある。
安売りしていたから少し多めに買い込んだとは言い難い量の買い込んだ物を足元に置き、途方にくれていたを偶然見回りをしていた近藤が声をかけた。
見つけたのは土方が先だったが、何をしているのかと訝る間に、近藤が声を掛けてしまったのだ。
今にも引きちぎれそうなビニール袋から新たな袋に詰め替えようとしていたらしいは、二人に会うといつもどおり愛想笑いをして別れようとした。
一人で持つには多すぎる荷物は気にするなとばかりの態度で、大方誰か荷物持ちに呼び、その相手に会わせたくないのだろうと土方は予想したが、実直な近藤は自ら荷物持ちに志願した。
志村妙が相手ならいざ知らず、わざわざ顔見知り程度の女の荷物持ちを買って出るなど阿呆である。
呆れる土方と断るだったが、近藤は快活に笑って米袋を肩に担いだ。
そうして手にも袋を幾つか抱えて歩き出してしまったのだから、始末に終えない。
仕方がないので、土方もお供をすることになってしまっている。
「物には限度ってぇもんがあんだろうが」
「まあそう言うなトシ。さんだって忙しい身だ、たまの外出でこうして買い込んでしまうのも仕方ないだろう」
「業者から安く仕入れるとかすりゃいいだけの話だろうが」
道々聞けば店で使う分も入っているというのだから、土方の突っ込みも道理である。
だがは首を横に振った。
新作の試作品を作るのに、店の材料を使うなど勿体無くてできないと言う。
自分の店で取り扱う代物であるのだからそんなことを考えるのはおかしな話だ。
もし違う材料で違う味になってしまった場合、どうするのだという疑問にはにこやかに答えた。
「安い材料で経費抑えたんが美味しいんやったら、良い材料使うて作るもんが不味いわけがありません」
自信満々で、近藤は職人としての自信ですねと感激していたが、土方は違うと睨んだ。
は妙なところでケチなのだろう。
店の客ではない自宅の庭で向かえる相手に対して当然のように店の売り場から和菓子を選んで出すのだ、試供品に金を掛けないというのもおかしな話である。
美味しかったら今度は店で買ってくださいね、と言うだ。
商魂逞しく後々のことを計算しているなのだし、職人の自信より経費削減を考えているのだろう。
今は店に何人か職人を抱え、自身が商品を製作するのは少ないらしい。
それはそうだろう。
繁盛している店をたった一人で切り盛りしているのなら、こうして買い物する時間も訪問客と縁側でのんびり談笑している暇もないはずだ。
「店で売る物とうちが気まぐれに作る物との違いの判らへん土方さん。何ぞ言いたいことがあるんやったら遠慮なく言うてくださいね」
まるで土方の考えが読めたように、がにこりと笑う。
「え? トシ、何か言いたいことあるのか?」
「ねえよっ! つか、どういう意味だそりゃ」
「そのまんまの意味やけれど」
つまり、訪問客に振舞っていた和菓子は店で出しているものではなかったということだろうか。
けれど見た目も味も、何がどう違うのかは判らない。
「なんだかんだと、神楽ちゃんも銀の字も、手ぇ抜くとバレてしまうさかい、あげる時は試作品言わんと納得してくれへんし」
「悪かったなぁ、和菓子の味も判らねえ男でよ」
土方以外にはちゃんと店のものを出しているような口ぶりだ。
始めは土方にも店のものを出していただろうが、きっと途中で気付かないと気付いたのだろう。
見縊られるのは癪だが、確かに気付かなかったのだから返す言葉もない。
「真選組の皆さんは、どうなんやろ。沖田さんは気付いてくれたようやけど」
「和菓子の違いが判るなんて、総悟も結構やるじゃないか」
「たまたまじゃねえの」
糖分過多の誰かと違い、沖田が気付いたのはいつも口にしているものとの多少の違いにたまたま気付いただけだろう。
土方はいつから試供品を出されていたのかは気付かなかったが。
そもそも甘いものが好きではないのだし、出された和菓子を必ず口にしたわけでもない。
気付かないことくらいどうとでもない。
それを口にしたところで、の土方に対する目は変わった様子は全くなかった。
ただの負け惜しみとして、取られたのかもしれない。
それから、別に和菓子の味の違いを知りたいわけではなかったが、土方は和菓子屋へ寄ることが多くなった。
あの日、迎えを待っていたわけではなく疲れて休んでいただけだったのようだ。
一人で一度に抱えきれる量ではない量を買い込むのはの悪い癖らしい。
近藤と二人で分けても重いあの量を買い込むのは稀ではあったが、たまに前さえ見えないであろう荷物を抱えて歩いているに出くわすことがあった。
頼まれたわけではないのに、一度経験した荷物持ちを土方は不承不承引き受けている。
といっても制服姿だと目立つので、非番の時くらいではあったのだけれども。
それでも土方がと共に出かける日は増えている。
嫌そうではあるものの、土方も満更ではないはずだ。
それにも心なしか嬉しそうに見える。
もしかしたら二人は好き合っているのではないだろうか。
そうした噂が流れるのは早い。
けれど、誰も本人達に真相を確かめようとはしない。
否定されれば安心するだろうに、万が一肯定されてしまっては、という不安から誰も聞くに聞けないのだ。
沖田も噂は耳にしていたが、本人達に確認はしていない。
どうせどちらも否定するだろうと確信していたので、わざわざ聞く必要がないからだ。
けれど、ただ噂を耳にしただけと実際の二人を見るのとでは訳が違う。
見たくて見たわけではないが、恋人同士宜しく二人が町で歩いているのを見かけたことがあった。
荷物持ちだと称していたそうだが、その時の土方は何も持っていない。
いつもの制服姿で煙草を片手にの横を歩いていた。
あり得ないことに口元には笑みを浮かべている。
沖田は最初白昼夢を見たと思い、同行していた山崎の頬を思い切り抓り上げた。
山崎が悲鳴を上げて痛みを訴えたので、それが現実だと知った。
それに山崎自身も二人の姿を見て妙な納得をしていた。
噂は本当だったんですねぇ、と。
あまりに間の抜けた感想だったので、沖田は反対の頬も思い切り抓り上げておいた。
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