和菓子屋を後にした沖田は山崎を無視して早足で歩く。
「ちょっ、沖田隊長! 一体どうしたんですか?」
 普段は仲が良くて一緒になって自分や土方達を弄ぶくせに、今日は何故か突き放すようなことをする。
 沖田の考えが読めず、山崎は混乱していた。
 ふと足を止めた沖田に安堵して追いつくと、目の前に土方が煙草をふかして立っている。
「……で、何か情報漏らしたか?」
「駄目ですねィ」
 自ら話を断ち切ったくせにそれは言わず、沖田は面倒そうに頭を掻いた。
「まあちょっとばかり脅しつけたんで、近いうちなんか動くんじゃねえかなァと希望的観測付けてみやした」
「お前の予想はどうでもいい。どんな動きだろうと、桂に繋がりゃ儲けもんだ」
「そう簡単に事が運ぶと、いいんですけどねィ」
 そうならないと予想しているような沖田の口ぶりに、土方が眉を潜める。
 沖田と共にの元から来たはずの山崎も勿論沖田の考えが読めず、眉を下げた。
 わざと神経を逆撫でするやり方は確かに沖田らしいのだが、それをに使うののは信じられない。
 機嫌が悪かったのかもしれないと思うも、その原因として考えられるのが今一緒に居る副長だ。
 普段感情を表出さない沖田だから、怒った振りをしていることも考えられるが、だとしても何を目的としてそんなことをしたのか。
「──あ」
 屯所へ向かう道行き、ポケットに突っ込んでいた携帯電話が着信を知らせ、画面を確かめて思わず山崎は立ち止まった。
 意味深に立ち止まった山崎に、土方と沖田が数歩手前で振り返る。
さんです」
「何でお前の番号知ってんだよ」
「この間の事件のときに、一応教えておいたんです」
 土方と沖田の二人同時に眉を寄せて山崎を睨む。
 山崎は大慌てで着信を取った。
 このまま二人と話をしてをないがしろにするのも失礼だし、何より目の前の二人に何をされるか知れない。
「はいっ! もしもし!?」
 命綱のに縋りつく山崎を見て二人が舌打ちする。
 ひとまず助かったと応対を続け、山崎はの言葉に目を丸くした。
「──え? えぇ、まあ、居ますけど……」
 窺うように土方を見、不可解げに首を捻りながら返事を返している。
 それじゃあ、と電話を切った山崎は、やはり不可解そうに土方を見る。
「何だ」
「それが……この前の人に会いに行くから、土方さんにも同行して欲しいそうで……」
「この前の人? 誰のことで?」
 問われても土方にも判らない。
 けれどわざわざ名指ししていることから、と土方の両方の知り合いなのだろう。
 だが共通の知り合いで同行を頼まれる相手に心当たりなど……。
「あぁ……」
 思い出した。
「攘夷浪士風の男達を用心棒に雇ってた店の、上客のことだろう。俺ぁ会ってねえから知らねえよ」
 思い出せばなんて事はない、あの時見逃してしまった形になった奴と、漸く鉢合わせさせてくれるということなのだ。
 平然と煙草を吹かす土方を一瞥し、沖田は明後日の方向へ視線を向けた。
「……あー、土方さんが女のところから真夜中帰って来た、あの日のことですねィ」
「え、あの時さんに会ってきたんですか!?」
 土方が女のところへ夜出入りするというのは、短絡的だが深い仲だと想像させられる。
 そんな素振りも見せなかったくせに、と付き合っていたのかと驚愕する山崎は即座に鉄拳を食らって地に伏した。
「妙な言い方すんじゃねえ!! 偶々助けたっつっただろうが!!」
「わざわざ言い訳するところが怪しいんでさァ」
「違うっつってんだろ!!」
「あーあ、みっともねェ。真選組副長ともあろう男が、言い訳に終始してらァ。山崎、屯所帰ったら皆に言い触らしてやんぞ」
「俺を巻き込まんで下さい……」
 まだ朦朧とする意識下で、山崎は返事を返す。
 賛成していないのに勝手に巻き込まれて土方に切腹を迫られるのは御免である。
 屯所に着く頃にはどうにか山崎は復活したものの意気消沈著しく、残り二人はやはり刀を付き合わせていた。
 止める気力も残っていない。
「山崎、どうした?」
「局長〜ぉっ」
 事情を知らない近藤の不思議そうな顔に、山崎は天の助けとばかりに飛びつく。
 二人には「仲が良くていいな」と的外れな感想を述べて笑う局長に、山崎は思い切り首を横に振る。
「それがですね、聞いてくださいよぉ」
「山崎、今晩例の張り込み行くから準備しとけ」
 近藤の優しさにほだされて愚痴ろうとした山崎の言葉を無残に打ち消し、土方が睨みを効かせる。
 別にのことを言及するつもりもなかったのだが、無言の圧力に負けて口を噤んでしまった。
 ……まあ、今更二人の喧嘩じみた過激なじゃれ合いを報告したところで、近藤は仕方がないと苦笑じみた笑いを浮かべるのがオチだ。
「トシ、俺も行こうか?」
「いや、近藤さんはいざって時のために休んでてくれ。今回は俺達だけで十分だ」
 張り込みとは言うものの、土方はの客に会うつもりだろう。
 相手の数も判らないのに、数人だけで乗り込むのは短慮だ。
 勝手に数に入れられているだろうことを察した沖田が面倒臭そうに頭を掻いた。
「いってらっしゃい。俺ァ、今晩も土方さんの死体数えて安眠しまさァ」
「縁起でもないことすんじゃねえっ!」
 当然沖田も来るものだと思い込んでいたのだが、当の沖田は関わるのに飽きたのかさっさと刀をしまって自室へ下がってしまった。
 本当に二人きりなのかと不安になった山崎の後頭部を、土方が容赦なく引っ叩く。
「心配すんじゃねえよ。あっちだって足手纏いの奴が居んだから、そうそう危険な事ぁしてこねえだろ」
「足手纏いって……」
 のことだとは気付いた。
 店の上客だというのだからを危険な目に合わせるような真似はしないだろうし、そうそう殺傷沙汰など起こさないはずはない。
 それを見越して土方は少人数で行動しようというのだろう。
 確かにそれはそうだろうとは思うのだが。
「逆にあっちに人質として取られたりしないといいんですけど……」
 最悪の事態を予想して、山崎は嘆息した。