「無料報酬撤回できなかったって、どういうことアルカーっ!!」
和菓子屋から戻ってきた銀時が、無事仲直り出来たと言ったとき、新八も神楽も大いに喜んだ。
が、また明日も和菓子が食べられるネ、と神楽が笑顔で言った瞬間、銀時は顔を背けた。
神楽は気づかず喜んでいたが、一人気付いた新八が詰め寄ると、銀時は曖昧に誤魔化した。
何か隠していると詰め寄る新八に、面白そうだと神楽が加勢し。
訥々と漏らされた事実に、冒頭の神楽の叫びへと繋がる。
「いやいやいやいやいやっ、時間かけて説得すりゃ、どうにかなるからっ! 銀さんがどうにかするからっ!」
「銀ちゃんに任せてたら何十年待たされるか判らないネっ!!」
「お前がばあちゃんになるまでは待たせねえよ。いくら何でも」
本気の神楽に勝てるわけがない。
必死で抵抗と防御を繰り返す銀時に、神楽といつの間にか参戦した定春は容赦なく攻撃する。
「はいはい、もう夕飯にするから、神楽ちゃんも銀さんもテーブル片付けてよ」
一人現実に戻り新八は夕飯の支度を始める。
この騒ぎはいつものこと。
収まればすぐに「お腹空いた」と別の騒ぎが始まるのだ。
その前に用意しておくのが、新八の仕事の一つでもある。
Don't speak!!
「のトコ、行って来るヨー!」
次の日、お昼をきっちり食べてから、神楽は意気揚々と出て行く。
食器を片付けながら、新八はちらりと銀時を見る。
「いいんですか?」
「何が?」
「神楽ちゃん」
銀時がジャンプの影から新八を一瞥した。
「……別に良いんじゃねえの? 行動制限する権限無いし?」
「それはそうなんですけど……」
新八だって神楽を本気で止めようとは思っていない。
無理だ。
ただ少し、気になるだけだ。
「さんのこと、脅してないといいな……」
「それも心配ないだろ。あいつは見た目以上に頑固だ。
例え指一本折られた所で、主張は変えねえよ」
「いや、余計心配なんですけど。そんなこと神楽ちゃんがするとは思えません。でも、指や手に何かあったりしたらさん、和菓子作れなくなっちゃいますよ」
銀時や新八には容赦なく鉄拳制裁を仕掛けてくるが、女性に、しかも好きなものをくれる相手には流石に暴力は振るわない。
現に新八の姉でもある妙のことは『姉御』と慕っている。
「どうでもいいけどよ、新八」
ジャンプから頭を上げず、銀時が問う。
「何ですか?」
「お前、いつからあいつのこと名前で呼んでた?」
「え?」
虚を突かれたように新八は目を丸くして、リビングの銀時を振り仰ぐ。
銀時は新八が見ていることに気付いているだろうが、顔を上げようとはしない。
「銀さん」
食器を洗い終え、新八はリビングに出てくる。
「嫉妬ですか?」
「ちっげーよ、バカ」
*
*
神楽は和菓子屋の隅で丸まってじっと待っている。
出されたみたらし団子も、何とか言う薄茶色した餡菓子も既に食べつくして影も無く、飲み物もお冷だけ。
はまだ仕事中だ。
銀時なら同じ仕事仲間だし、ちょっかい出してもそんなに怒られない。
でもは違う。
「神楽ちゃん」
呼ばれて神楽は勢い良く振り返った。
店の奥から笑みを浮かべて手招きしている。
仕事が終わったのだろう、神楽は喜び勇んでの居る奥へ向かった。
店と地続きの自宅は荷物が多くなく、女性の家にしては装飾品の類は少ない。
それでも万事屋にはないものもあって、神楽はいつもこの家に来るのが楽しみだった。
「今日はもう一人居るんやけど、三人でもええ?」
「別にいいアルヨ。ドコの馬の骨連れ込んだアル?」
「んー、馬の骨とはちゃうなあ。真選組やから」
「真選組?」
嫌な予感が一瞬だけ過ぎったものの、そう世の中都合よくできてはいないはずだ。
頭を思い切りよく横に振り、雑念を追い出す。
「誰アル? 大串君? ゴリラ?」
「真選組にそんな人居るん? その人達は知らへんけど、最近仲良うさせて貰うてる人やね」
「フウン?」
盆を持つのために襖を開けて、縁側への道を作る。
真選組にと仲良くするような人間は、全く予想が付かない。
お茶会なんて、可愛らしいことが似合いそうな人間が居る集団には思えないのだ。
真選組のジャケットを着た人物が庭を眺めるようにして、こちらに背を向けている人物が座っていた。
見覚えのある茶色の髪が、と神楽の気配に気付いて振り返る。
「沖田さん、言うんやけど」
「げ」
「……なんでィ、チャイナじゃねえか」
顔を引きつらせて神楽は足を止め、目を見開いた沖田だったが、すぐに興味のない素振りで背中を向けた。
それぞれの反応を交互に眺め見て、は不思議そうに小首を傾げる。
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