最近折角貰った和菓子を、銀時が厭うようになってきている。
 との約束があるから新八は銀時に和菓子を食べて貰い、早くのことを思い出して欲しいのに、視界にすら入れてくれない。
 菓子箱を持って帰ると眉間に皺を寄せ、奥の部屋へ引っ込んでしまう。
 だから食べるのは新八と神楽、そしておすそ分けに持って行くお登勢やキャサリン、妙だ。
 食べて欲しい人に食べてもらえない。
 どうしたら銀時に食べさせることができるだろうか。

 新八は思案しながら、和菓子屋へと今日も足を運ぶ。











 沖田と土方を見送るついでに店の表へ回ったは、妙に騒がしく、人だかりができているのにそっと眉を寄せた。
 人山を掻き分け、中心へと向かう。
「……どないしたん?」
「あ、店長〜っ」
 柄の悪そうな男が数人取り囲む中、今にも泣きそうなバイトの少女が胸倉を掴まれた新八に庇われている。
 転んだのか男達に突き飛ばされたのか、新八の服がよれよれになっていた。
「おうおう、お前がここの店長か」
「ちょっとっ。さんは関係ないでしょうっ!」
 に気付いた一人の男がに詰め寄り、新八が声を荒げても胸倉を掴まれたままの状態では何もできない。
 自分より背の高い男と対峙し、は睨みあげるように顎を上げた。
 人目もある店の前で、乱闘騒ぎは避けたい。
「どういったご用件やろ」
「お前のところの和菓子買ったら中にゴキブリ入ってたんだよ、間違って食ったらどうしてくれんだ、えぇ!?」
「ちゃんとお渡しする際にはお確かめしたので、家に持ち帰って開けっ放しにしたままの箱に入ったんじゃないかって……」
「おうおう姉ちゃん、俺らの家が汚いって言いたいのか、えぇ!?」
 反論するバイトの少女の言葉を遮り、男が凄む。
「店の信用落とすための、言いがかりじゃないか!」
「んだとこらぁっ!?」
 その間に割り込むようにして新八が掴まれた胸倉を振り払って男を引き離そうとした。
 が、その手を逆に掴まれ、地面に叩き落とされる。
「志村さんっ!」
 小さな悲鳴が人だかりの中からも起こる。
 慌てては駆け寄り、新八を助け起こした。
「大丈夫どすか? 迷惑かけてもうて、えろうすんません」
「僕は大丈夫です。こちらこそすみません、全然お役に立てなくて」
 偶然バイトが男達に絡まれている時にやってきた新八だったが、多勢に無勢でやり返すことが困難だった。
 それに店の前、他の客や通りすがりの人たちの目もバイトの安全もと考えると、余計やり返すことが難しい。
 それでもどうにかしたいと考えていたのだが、結果的に役に立たない。
 項垂れる新八の服を払いながら、は頭を横に振る。
「おおきに。うちの店やのに、こんなになってまで守ろうとしてくれて」
「この落とし前、どうつけてくれんだ?」
 の手を掴み無理やり立ち上がらせて胸倉を掴み、男がに凄む。
 下手なことは言い返せない。
 一人なら多少手荒でも相手はできるが、数人となると一度に複数相手することができないには、不利だ。
 周りに迷惑をかけることはできない。
 たった数分でも、店の影響を考えると恐ろしいほどの損失である。
 唇を噛み、は口を開く。
 この場はなんとか納めなくてはいけない。
 店主である自分が、

「何の騒ぎだ、こりゃあ」
 の口から言葉が発せられるより先に、どこか不機嫌そうな声が割り込んできた。
 既に立ち去ったと思っていた土方が、煙草を咥えて人だかりの内側にいつの間にか入り込んでいる。
「ひ、土方さん」
 新八が動揺したように名を呼ぶ。
 それに答えることはなく、土方は呆然とする男達に近付くと、の胸倉を掴んでいる男の手を無造作に掴む。
「おいおい、公衆の面前で女をいたぶるたあ、お前どういう教育受けたんだ? あぁ?」
「しっ、真選組には関係ねえ! お、俺達は……っ」
「俺達は、何でェ?」
 土方に睨まれ、男は震えながらも言葉を返そうとした。
 だが背後から聞こえた沖田の声に悲鳴を上げ、言葉は途切れる。
「妙な人だかりができてるから何かと思えば。土方さん共々ぶっ放しても?」
 平然と大砲を抱えた沖田に男達だけではなく集まっていた民衆も悲鳴を上げて遠巻きに遠ざかる。
「止めとけ。ここだと店も人も巻き込んじまう。話は屯所に帰ってから、じっくり聞こうか。……つかお前どさくさ紛れで何バカな事言ってやがる」
 土方に止められて舌打ちしつつも、沖田は素直に大砲を片付ける。
 人だかりを散らすためのただの脅しであるため、本当にぶっ放そうと思っていたわけではない。
 逃げようにも足が竦んで動けない男達をあっさり捕らえることができた。
「手数かけてもうて、堪忍え」
「ありがとうございました、土方さん、沖田さん」
「別に礼を言われることじゃねえよ」
 通報に駆けつけたパトカーに男たちを押し込め、遠巻きに成り行きを見守っていた人だかりも少しずつばらけて行く。
「ほんまに堪忍ね、志村さん。店に来て貰うてこんなことに巻き込んでしもうて……」
「んーじゃ、そのお詫びとして今日の和菓子はタダでいただけますかね」
 頭を下げたは、聞こえた声に驚いて顔を上げる。
 新八の後ろには銀時が立っており、その目にはどこか怒りが見え隠れしている。
「銀さんっ。どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもねえよ。買い物に出てオメー全然帰ってこねえから迎えに来たんだよ」
 言って銀時は新八の薄汚れた服装に目を細めた。
「で。何で俺の助手がこんなんなっちまってんのか、説明してくれる?」
「あぁいえ、これはさんは悪くなくて、言いがかりつけてきた男たちが居たんですよ」
「へー」
 新八が慌てて説明するも、銀時は真面目に聞く気がないようで、耳の穴に指を突っ込んでいる。
「どうでもいいけどさ、もう新八に和菓子の大量持ち帰りさせんの止めてくれる? 俺もう食べねえし、結局隣近所に配り歩いてさあ、迷惑してんだよ実際」
「ちょ、銀さん! 違いますからねっ、銀さんがただ食べないだけで、僕たち全然迷惑なんて思って、な、ないです、からっ」
 にフォローを入れようとする新八だったが、言ってしまってから自分の失態に気付いたがすでに遅い。
 銀時に、と持たされた和菓子は銀時自身の口には入っていないことをに知らせてしまったのだ。
 の強張った表情が、白くなっている。
「あ、あの、さんっ」
「……まあそういうことやろうと思うてたわ。そないに嫌われてたんやねぇ……」
 無理矢理に笑うがしかし、それでもちゃんとした笑顔に見えるのは接客業のプロとも言えるものだろう。
 ただし、蒼白でなければ。

「違いますっ! 銀さんが食べないのはそうなんですけど、違いますからっ!」
「新八、意味わかんねえよ」
「誰のせいだと思ってるんですかっ!」
 銀時に食って掛かる新八だが、銀時は飄々として全く耳を貸す様子は無い。
 店へ入ったが、菓子箱を持って戻ってくる。
 俯いたままで表情は見えない。
「今日はこっちが迷惑掛けたわけやし、これはお詫び。金輪際、無料提供はせんから、安心して」
「え、あ、さん……」
「ほな」
 新八に押し付けるように菓子箱を渡すと、は早足で店の奥へと消える。
「新八ぃ、今日は休みな。それ持って帰れ」
 事の成り行きを詰まらなそうに見ていた銀時はそういうと、さっさと背を向けて歩き去る。
 一人取り残された形になった新八は店と銀時を困惑したように交互に眺め、手元の菓子箱に目を落とした。
「〜〜っあぁもうっ!」
 ここで立ち往生していても、何も始まらない。